第3章 大貫 幸恵

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体育の授業が水泳になった夏休み前、ささやかな喜びがあった。 学校のトイレで用を足したとき、ショーツに赤いシミを発見。 『きた!』 思わず声をあげた。とうとう私にも、初潮がきたのだ。 それまで不安で不安で。自分は妊娠できない身体なんじゃないかと怯えてもいた。 でも、タイミングが悪すぎる。5限目は、その体育だ。 紙を何重にも折り曲げてショーツの上に敷き、職員室に向かう。 そこで初めて、女子だけが使える魔法の言葉を唱えた。 ワンランク上にアップしたような高揚感。 なんだか水の中で騒ぐクラスメイトたちが子どものように見えた。 最近、長距離走の選手に転向した上村くんの顔も、楽しかった幼少期を思い出させる。 授業が終盤に差しかかったとき、大声を張り上げる体育教師の元に、ひとりの女性教諭が駆け寄ってきた。 ちょうど私の目の前で、 『練習試合の件で緊急に相談したい事があるそうで……』 と耳打ち。その体育教師はバレー部の顧問だった。 『すぐ戻るからな! それまで自由時間だ!』 辺りが歓声で湧き、思いおもいにハシャぐ皆。 すると、隅にひっそりと座る私を見ている群れがあった。 尾堂直哉と橋口亮平、彼らにヒソヒソと話して笑っているのはあの3人組。 イヤな予感がして、私は視線を合わさないように下を向く。 だが、 ??ピタ、ピタッ。 水にまみれたいくつかの足音がこちらに歩み寄ってきた。 『おい、大貫。ちょっとこっち来いよ!』 『なに……ですか?』 『実験だよ、実験!』 意味がわからず戸惑っていると、 『みんなーチューモーク!』 橋口亮平が声をかけ、次第に水しぶきは収まってゆく。 ??……。 こちらにすべての視線が向いている。 『お前に謝りたいヤツがいるか試すんだよ。だから、ほら立て!』 尾堂直哉は、私だけにそう言った。  
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