第3章 大貫 幸恵

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教室だけのいじめが、その出来事がきっかけで学校全体に伝染した。 体育の授業を拒否する生徒がほとんどを占め、プールの水を入れ替える事態にまで発展。 ほとぼりが冷めるまで一時、授業はおろか水泳部まで活動を停止した。 それからというもの、私が歩く廊下はたった一人の大名行列。自然に道が拓けて、皆が口々に「菌」と呼んだ。 このときが一番辛かったかな……。 女であることを恨んだ初めての瞬間だった。あんなにも心待ちにした夏休みは後にも先にもない。 信じていた。世間を賑わすニュースのように、ある程度時間が経てば、何事もなかったように消えると。 1カ月半もある。その間に次の興味が生まれて、元の関心が薄れ、私は今まで通り質素に中学生活を送れるだろう。 この希望を胸に抱いて、1日も休まずに学校へ行った。 休むのは、いじめに屈した証だから。 自分でもここまで【忍耐】という言葉が似合う人間だと思いもしない。 幸い、精神以外は傷つけられることなく夏休みを迎え、連続猛暑日更新!とか巷は騒いでいたけれど、私にとってはとても過ごしやすい日々だった。 3分の2を終えた時、私自身が世間を賑わせてしまった。 人口上位1%の知能指数を有する非営利団体の会員になったからだ。 暫定値でIQ200。 現在最も偏差値が高い日本人と称して、それはもう取材が殺到。 だけど私はこんな性格だし、母もできるだけ人目に触れないように生きているから、すべてを断った。 むしろ、注目されることに頭を抱えてため息をついていたから、悪いことをしたなとすら思っていた。 それが功を奏して、2学期がはじまる頃には小康状態となり、以前のように慎ましく通学することができた。 不安でいっぱいだった廊下も、違った意味で道が拓けている。 ??ザワザワ。 『ヤバイよね……』『アインシュタインより頭いいらしいぞ!』 『友達になっとけって!』        ザワザワ??。 こんな様子だから、若干の期待はあった。 しかし、元々眼中に入れていなかったという強がりと、「菌」呼ばわりした後ろめたさで、声を掛けてくる者はおらず。 それに、このことはアイツらを焚きつけてしまう形になった。  
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