第3章 大貫 幸恵

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『ちょっと来なよ』 早々に、あの3人組が私を呼びつける。 女子トイレで壁を背にすると、 『あんたさ! 頭良いからって調子に乗ってない?』 『ほら、その偏差値で今すぐ私たちにやめさせてみろよ゛!』 チヤホヤされているのがよほど気に入らないのか、ふたりは1学期よりも威圧的になっていた。 『…………』 『お゛い! なんか言えっ゛!』 『……ご、ごめんなさい』 『チッ、誰も謝れなんて言ってねぇ゛んだ、よ゛ッ!』 『う゛!』 腹部に痛烈な刺激。初めて、人に殴られた。 『うぅ゛……』 『肉が多いから痛くないだろ?』 『大袈裟なんだよ゛!!』 『ッ!』 ふくらはぎの裏側を蹴られ、バチンッという破裂音。 あまりの痛みに脚を抱えてうずくまる。 『立てよ、お゛ら゛!』 頬に20数㎝の衝撃が走ったとき、 『顔はやめな!』 いつも後ろにいるリーダーがやっと声を出した。 『今日はこんぐらいにしてやるよ!』 『あんまり調子乗んな、デブが!』 捨て台詞を吐いて出ていく湯之下美佐子と梅田はるか。 ひとり残ったあの女は、 『大丈夫ぅ? 痛かったでしょ?』 と、髪を鷲掴みにして後ろへ引く。 そして、冷酷な笑みを浮かべながら、 『楽しい新学期がはじまったね!』 そう言った。 冷たいタイルの地べたに座り、小さい窓から見える青空を眺めながら粛々と思う。 何も意味は無い。IQ200なんか。 難解な数式が解けても、論文の矛盾を突けても、いじめを終わらせる方法がわからないのだから。  
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