第3章 大貫 幸恵

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結局、母は退院するまでの1週間、一度も見舞いに来なかった。 反応次第では進学をやめようと決意して、あの紙を渡す。 『まだ決めてないんだ……どこがいいと思う?』 こんな親でも、養われていることに変わりはないから。 すると、 『あら、そうなの? じゃ静岡の焼津に引っ越しましょ!』 半ば興奮気味に言う。 訊けば、今の恋人は漁師らしく、そこが地元。彼の近くに居たいという身勝手な理由だった。 だけどよくよく考えてみたら、私にとっても好都合。 『じゃ、静岡の高校を受けるよ。いい?』 『えぇ! でも、お金ないから公立にして』 その心配には及ばない。 開桜中側はどの高校でも特待生の席を用意すると言っていたから。 試験が免除され、面接に臨んだが、 『なぜキミのような子が我が校に?』 などと、まるで接待。 卒業式を待たぬまま、私たち親子はひっそりと静岡に転居する。 悪夢の日々がこれで終わった。そう思っていた。 しかし、現実は地獄の入口に立っただけ。 信じがたい秘密と粉々に砕かれた自尊心が、私を地獄の果てへと誘う。 そこで生まれた。出会ってしまったのだ。 【復讐】という信念に。伊達磨理子という存在に。 高校2年の冬。 私は死ぬことを選んだ。 もしも、これから死のうとしている人が居るならば聞いてほしい。 あなたは今、特別な権利を持っていると。 「死ぬ気でやる!」 「死に物狂いでがんばる!!」 なんて簡単に言うヤツがいる。 だけどそれは、一度でも自ら命を断とうとした者だけが持てる特権。 その瞬間のことを思い出したら、生きていくのに邪魔をするプライドや恥なんて、とてもちっぽけに思えて乗り越えられるはず。 これが私の生き方。この言葉があなたの心で生き続けたなら、私は死んだことにはならない。 そう信じている。 では、さようならーー。  
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