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まだ全貌は見えない。
「ハァ……ハァ……」
ゆっくり、一歩また一歩。
「ハァ……ン゛ッ……」
冷たく乾いた空気が喉につっかえても、さらに一歩。
また一歩。
そして、ようやく明かりの圏内に入った。
瞬間!!!!
「キヤ゛ァ゛ーーーーーッ!!」
一帯に轟く、彩矢香の悲鳴。
「ミ゛……ミサコ?!」
急襲する氷点下の絶望は秒速で凍りつかせた。
救いたい、という思いを……。
「ミサコッ゛!」
青白い肌に黒い涙を流す彼女の生首が、2つの玉の上にポツンと置かれ、手足は切断されて、木の枝を模したように突っ立つ。
それは、真っ赤に染まった人間雪ダルマ。
悲愴と血の臭い漂う変わり果てた姿だった。
「う゛ぅ!」
むごい。むごたらしい。
身体の内側から込みあがる震えに、僕はえづく。
彩矢香にいたっては、その場にへたりこんでうつむいたまま。
故に、おそらく見ていないだろう。
無惨な亡骸となった美佐子の傍らにそびえる木。
その幹に記された
【イジメの末路】
という血文字のメッセージを。
「くッそ……」
悔しい。
終わらせる方法にたどり着いていながら、彼女を死なせてしまった。
その現実から目を背けたくて、僕は瞼を閉じて唱えてみる。
幸せだったあの瞬間に。目覚めればそこに彩矢香の美しい寝顔があった、あの時間に。
戻れ、とーー。
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