第4章 水嶋 辰巳

6/95
前へ
/325ページ
次へ
呪われし禁断のゲームから脱却する方法だ。 そのために、この長閑な田舎町にやって来た。 僕は持ち主不明の携帯電話を握りしめ、すべての真相を解き明かそうと心に誓う。 この件については、あえて探ったりはしない。 これが手元にある以上、犯人は行く先々で僕たちの前に現れるだろうと踏んでいた。 「ずいぶん寝ちゃったね」 「起きたんだ。おはよ……って、今から夜だけど」 目をこすりながらの無防備な姿を見せる彩矢香。 ふと、赤く熟れた果実みたいな口唇に目が縛られる僕。 宝泉彩矢香=愛すべき人 彼女は視線の矛先に気づいて、一滴の雫が水面に波紋するような鼓動。 僕はそっと彩矢香の元へ寄り、あどけない寝起きの顔に口唇を近づける。 今にも触れ合いそ… 「歯磨き!」 「……ぇ」 「歯磨きしてからじゃ、ダメ?」 あまりにもその反応が可愛らしくて、僕は笑った。 それからお互いに服を着て、髪を整え、東京へ戻る準備を済ませる。 このときにはもう、キスをしたいという衝動も一時停止していた。 部屋から出て歩くふたりの距離は、入る前よりも断然に近い。 それだけで、この時間は意味のあるものだったのだ。 もう犠牲者は出さない。残された僕らは必ず幸せになる。 きっとこれが、死んでしまった直哉と亮平とはるかへの弔いになる。 僕はそう自らに暗示をかけていた。  
/325ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加