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呪われし禁断のゲームから脱却する方法だ。
そのために、この長閑な田舎町にやって来た。
僕は持ち主不明の携帯電話を握りしめ、すべての真相を解き明かそうと心に誓う。
この件については、あえて探ったりはしない。
これが手元にある以上、犯人は行く先々で僕たちの前に現れるだろうと踏んでいた。
「ずいぶん寝ちゃったね」
「起きたんだ。おはよ……って、今から夜だけど」
目をこすりながらの無防備な姿を見せる彩矢香。
ふと、赤く熟れた果実みたいな口唇に目が縛られる僕。
宝泉彩矢香=愛すべき人
彼女は視線の矛先に気づいて、一滴の雫が水面に波紋するような鼓動。
僕はそっと彩矢香の元へ寄り、あどけない寝起きの顔に口唇を近づける。
今にも触れ合いそ…
「歯磨き!」
「……ぇ」
「歯磨きしてからじゃ、ダメ?」
あまりにもその反応が可愛らしくて、僕は笑った。
それからお互いに服を着て、髪を整え、東京へ戻る準備を済ませる。
このときにはもう、キスをしたいという衝動も一時停止していた。
部屋から出て歩くふたりの距離は、入る前よりも断然に近い。
それだけで、この時間は意味のあるものだったのだ。
もう犠牲者は出さない。残された僕らは必ず幸せになる。
きっとこれが、死んでしまった直哉と亮平とはるかへの弔いになる。
僕はそう自らに暗示をかけていた。
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