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車に乗ると、彩矢香はまず携帯を接続し、誰かに電話をかける。
『もしもーし』
出たのは美佐子だった。やけに明るく感じるのは、車内に大音量で響いているからか。
『何してんだ、今』
『ぁ、タツミ? いま化粧中! 群馬、どうだった?』
少し早く着きそうだから会って話せるか、と尋ねたが、
『ごめーん! これから美容室で、そのあと同伴なの』
なんて、危機感がまるで感じられないふざけた答えが返ってくる。
僕らは、一度家に帰るのも面倒だと、そのまま美佐子が働く店のある池袋に向かうことを決めた。
『じゃ、上がったら連絡するね!』
遊ぶ約束でもしているかのようなテンションで通話を切られ、僕らは鼻で笑いながら顔を見合わせる。
「相変わらずだな」
「……だね」
こちとら楽しい話で盛り上がれる心持ちもなく、僕はふと、コートの内ポケットから“あれ”を取りだす。
『あなたたちの周りでこの人を見かけたらすぐに報せて!』
帰り際に息もつかぬ言葉で、沙奈から渡された大橋敬太の写真だ。
冴野将輝=大橋敬太=謎の失踪
彼は何故に愛する家族を残して消え、磨理子が再び甦ったのか。
「何を考えてるの?」
今なら本心を言える。
「ん……この人、もう死んでるんじゃないかな」
「どうして?」
これが、最もつじつまが合う。
「この人がいたから、伊達磨理子は消えた。ってことは、この人がいなくなったから……」
「伊達磨理子が再び現れた?」
そう考えるのが妥当だ。
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