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僕の言葉を聞いた直後、彩矢香は携帯を手に持った。
すぐに何かを見つけ、画面を向ける。そこには、茜がグループから抜けていることを知らせる通知があった。
『なんで黙って抜けたの?』
『…………』
だんまりを決めこむつもりか。ならば、自尊心をくすぐって引き出そう。
『もしかして、仕事で何か悩んでる? 話、聞くよ。声優って、売れないと色々大変な…』
『関係ない!』
ほら、釣れた。
『うち、本当はハタセンが同窓会のとき言ったことに共感してた。大貫さんがいじめに遭ってるのを見て見ぬフリしてた自分がずっとイヤだったの。だから、だから……友達申請が来たとき、うちなんか例えうわべでも友達になる資格なんか無いって思った。あんたらと関わってると、あの頃のことを思い出して苦しいの……お願い、もう関わらないで!』
プツッと切れた通話。呆気に取られ、繰り返される機械音をしばしの間聴き続けた。
それを察した彩矢香が、黙って取り皿にサラダをよそう。
僕だっていじめに加担していないのに、同じ穴の狢だと思われていた。
茜は免許を持っていないし、車も所持していない。でも、タクシーで尾行することだってできるし、アリバイは不明。
なんだかムカつく腹いせに、限りなくシロに近いグレーにしてやろう。
「次は誰にするの?」
僕の前に色とりどりのサラダを置き、彩矢香は尋ねる。
急に理由を知りたくなった僕は、あいつに電話した。
『おう、どないしてん』
玄だ。
こいつは両方持っているひとりだから、慎重さも忘れない。
『いゃ、あ……あのさ』
今度は明確な距離があった。なんせ、半日前にケンカしたままだから。
『群馬、行ったんとちゃうん?』
あくまで僕目線。玄は気にしていないようだ。
『行ってきたよ』
『どやった?』
彼の関西弁を聞き、僕はふと思い出す。群馬での記憶ではなく、あの本の内容を。
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