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どうやら店を閉める前に客が入ってきたらしく、終わったのは予想よりも大幅に遅れた2時半前。
少しでも身体を揺らしていないと凍りそうな寒空の下、僕らは美佐子を待っていた。
「ごめーん! 酔っ払いがなかなか帰ってくれなくて」
申し訳なさそうに謝る彼女の手には、大量のコスチュームが詰まった紙袋。
「何だよ、それ?」
「うん。あのね」
今日は【コスプレナイト】と銘打ったイベントだったらしい。
「で、その酔っ払いが席を立った時によろけてさ、グラスが倒れて私のセーラー服に赤ワインがかかったの!」
閉店後の更衣室で、これからコインランドリーに行ってすぐに洗うと告げた結果……。
「これよ!」
以上、気になった点はひとつだけだ。
「え。コインランドリーって、僕らも?」
「サ~ヤー、おねがーい」
僕の許可は二の次。しかし彩矢香は二つ返事で、
「全然いいよ!」
と、3人で車を停めてあるコインパーキングに向かう。
「何をそんなにキョロキョロしてるの? 田舎から出てきた人みたいだよ」
美佐子はひとり後ろを歩く僕の様子をそう言った。
「誰かに尾行されてるかもしれないからね!」
なんて言えるわけもなく、
「いやー、雪が降る池袋もロマンチックだなと思ってさ」
「……キモっ!」
で、解決。
車の下を覗きこみ、例の携帯がまだあることを確認したときも、
「なんか、今日のタツミ変じゃない?」
と、彩矢香に同意を求める美佐子。
「そ、そうかな……」
知る由もない。彼女は僕の味方。
運命共同体と言っても過言ではないぐらいだ。
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