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一際目立つ店外照明。囲うガラスには一切の曇りがなく、設備の整った店内が筒抜け。
見るからに、まだ産声をあげたばかりのコインランドリーだった。
入口の前に車を停め、改めて明るすぎる中に目をやると、この世界の闇が浮き彫りとなる。
「ぁ……誰か寝てる」
「夜中だとたまに見るよ、ホームレス。新しいところは空調利いてるし」
ーーバタンッ。
僕と美佐子は車を降りた。しかし、なぜか彩矢香が出てこない。
運転席の横まで回ると、窓を少し開けて言った。
「どうせ車に戻ってくるでしょ?」
その視線は寝ている中年男性に向いている。
「あぁ……」
たしかに、中で待つのは気まずい。
「じゃ、財布だけ持っていこっ!」
再び助手席側を開けた美佐子は、シートの上に鏡の入ったバッグを置いて閉めた。
ボタン付きの自動ドア。その音で、仮称のホームレスが目覚める。
僕らを見て起き上がり、しらじらしく備えつけの雑誌を開いて読みはじめた。
身なりは普通で、一見すると浮浪者には感じない。
だが、不自然に多い荷物がそれを物語っていた。
こういう見た目でも家がないんだなぁと感慨にふけるが、それこそ僕とは住む世界がちがうわけで、視野に入れないよう心がける。
美佐子は袋から一着ずつ取り出し、洗濯機に放り込む。
キャビンアテンダントに婦警、白衣の天使と今話題のキャリアウーマンetc…。
様々な職種が1つのドラム槽にまとめられた。
指定された金額を投入し、蓋にロックがかかると、勢いよく水が流れだす。
パネルに表示された所要時間は34分。
「よし、戻ろ!」
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