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僕と彩矢香の奔走は骨折り損だったのか。
数分を過ぎても、周囲に何の変化も起こらない。
意気が様変わりしたのはやはり今夜の鬼である美佐子で、僕らに恨み節さえぶつける揚々ぶり。
「さんざん脅してくれたよね~。やっぱり呪いなんかあるわけないんだよ! 3人が続けて死んだのも、た・ま・た・ま」
「「…………」」
何はともあれ、喜ぶべきこと。
もう、夜が来るたびに怯えなくていいのだから。
「そろそろだ」
美佐子は待ちかねたように紙袋を持って外に出た。
「お、おい!」
まだ3時18分。油断も甚だしく、約束したことをすでに忘れている。
彼女のバックから鏡を抜き取り、後に続く。
「ミサコ、これ!」
僕の呼びかけを横目に見ながら蓋を開けた。
「え? もう必要…」
次の瞬間!!
「キャアアアアアアア゛ァーーーッ゛!」
膝が砕けたように後ろへ倒れる美佐子。
そして、
??バチンッ。
あれほど明るかった照明が消えた。
甲高い悲鳴で、すっかり寝入ったホームレスも起き上がり、環境の変化に戸惑う。
「どうした?!」
僕は美佐子の肩を抱き、顔を覗く。
「な゛……」
美しさとはかけ離れた表情が、至高の恐怖を表していた。
「ぁ、あ゛、あれ……」
震えている身体とは違い、固まったままの視線。
僕もその先を追うと、
「ッわ゛!!」
ドラム槽からこちらを見据える生首を見た。
驚いた拍子に、持っていた鏡が派手に床を転がる。
「兄ちゃんたちどうした!?」
この戦慄は、見えないほうが幸せだ。
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