第1章 大橋 敬太

7/22

72人が本棚に入れています
本棚に追加
/325ページ
翌日。 火葬された新八の骨を拾ったのは、俺と沙奈、宇治木の3人だけ。 「親戚は全員、遺体の引き取りを拒否したよ」 焼却が終わるまでの時間、宇治木は苦虫を噛み潰したような顔で言っていた。 それは何故か。大人がこぞって取り繕う“体裁”、それが理由だ。 聞けば、警察官僚に弁護士、県議会議員。 代々受け継がれる由緒正しき“兵藤家”の血筋が汚れると、伊達事件の後で新八に対して絶縁状を突きつけたらしい。 「そん゛な……」 悲哀をぶつける沙奈。俺も、この身を焼かれるような心情だった。 「新八さんは何も悪くないのに……」 理不尽さに対しての怒りが、胸の内で激しく燃えさかる。 3人の口数はまばらなだけに、焼却終了の案内放送はやけに大きく聴こえた。 「こちらで遺骨を壺にお移しください」 真っ白な手袋をして、竹と木で組になった箸を差し出す女性スタッフ。 俺が最初に受け取ると、慣れた口調で収骨の作法を教えてくれた。 「故人が三途の川を無事に渡るためです。お辛いでしょうが、気をしっかり持ってくださいね」  
/325ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加