第1章 大橋 敬太

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田舎の山奥にある寂れた精神病院。 サイドブレーキを引き、宇治木が声を静めて言う。 「あとはキミに任せるよ」 ここは警察関係者の出入りが禁止されている場所。 「行ってきます」 「うん。新八さんも望んでいるはずだから……」 たしかにそうだ。 『いくら恨んでも、深く憎んでも、愛おしいんだ。君江が』 あのとき語った思いを参照すれば、宇治木と同じ答えになる。 だがしかし、俺は幾ばくかのザワメキを感じていた。 重い足取りで正面玄関をくぐり、受付の窓に顔を出す。 俺に気付いた職員は、満面の笑顔で出迎えてくれた。 「大橋君! ひさしぶり……でもないっか?」 「えぇ、そうですね。この前はありがとうございました」 「いやいや! で、今日も君江さんに面会かな?」 俺は手に持っていた物を台の上に置く。 「今日はこれを届けに」 途端、ギョッとする職員。当然の反応。 「ぃ゛、遺骨?」 それが誰の変わり果てた姿かを説明すると、触るのでさえも抵抗があるのか、中を確かめずに院内へ通す。 恰幅のいい警備員が案内してくれたのは、またも談話室。 今回は訊くまでもなかった。 遺骨の受け取りに鉄格子があっては忍びない。人道的観点からの計らいだろう。 数分後、職員に連れられて君江が姿を現した。  
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