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第3小節・遠い日の歌
「やっぱりここに居た」
合唱祭の3日前の昼休み終了間際。持田は屋上に居る稲村の背中に声をかけた。
「よく分かったな」
「よく分かったなも何もないわよ。アンタが昼休みの練習をサボって行く場所っていったらここしかないでしょ?」
持田はうんざりした表情をしてそう言った。持田がそう言った後視線を移すと、稲村の手にクラシックギターが握られているのが見えた。
「そのギターは?」
「ああ、音楽室から借りてきた」
稲村は天真爛漫な表情でそう言う。あまりの無邪気さに持田は怒る気力を削がれた。
「もう。知らないからね。滝田先生に怒られても」
「大丈夫だよ。お礼にちゃんとこのギター、チューニングしておいたしさ。それよりさ、これ、聴いてみてよ」
稲村はそう言うと、ギターを奏で始めた。
「あ、これ、いいね」
持田が途端に笑顔になった。すると
「いいだろ?これ。CコードからGコード、AマイナーからEマイナー、って言う風に進めるの。簡単な和音ばっかりだけど、爽やかでいい感じだろ?」
稲村は満面の笑みでギターを弾きながら饒舌に語った。
「ホント、それだけ音楽のセンスあるのになぁ……力を貸してくれたら戦力になるのに」
持田が残念そうに言うと、
「だから、クラス合唱は俺から言わせれば音楽じゃないの。俺は俺の本当の音楽をやりたいんだ」
「へぇ。隆弘にとっての本当の音楽って、どういうものなの?」
持田の問いにに稲村は一瞬言葉を詰まらせた。
「それは……話すと長くなるからな。ほら、そろそろ行くぞ。音楽室にコレも返さないといけないしな」
稲村はそう言って立ち上がった。その瞬間、チャイムが昼休みの終わりを告げた。
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