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「隼瀬」
背後から声が聞こえたので隼瀬は振り返る。するとそこには史也が立っていた。
「父上。お役目、無事に終えました」
隼瀬は史也に報告する。
「隼瀬、まだお役目は終えておらんぞ」
「え」
ザシュ!
「――父上、何を!?」
『父上が、俺を切った!?』
隼瀬の右わき腹から左胸にかけて血筋が走る。切られた衝撃で隼瀬は地面に倒れたが、しめ縄を掴んですぐに起き上がろうとした。史也の手には、血がついた刀が握られていた。
「隼瀬、お前のお役目はここでオニに喰われることだ」
隼瀬は史也を見た。史也は冷酷な目で隼瀬を見ていた。
「お前のようなオニやモノに情けをかけて祓うような者は当主にふさわしくない。やはり当主には佐夜子になってもらう。佐夜子を養女に迎えれば問題ないことだ」
「ちち、うえ、ま、まってください」
隼瀬は痛みと史也からの言葉に衝撃を受け、声が震えてうまく話せない。
「お前はお役目に失敗してオニに喰われたことになってもらう。さあオニよ。贄として喰らうがよい」
「父上、どうか――」
やめてくれと言おうとしたとき、しめ縄の向こう側が急に冷たくなった。
「史也、良いのか。自らの子を己に差し出して」
オニが冷めた声で史也に言った。
「かまわぬぞ。これまでもお前は人を喰らってきたではないか。そこから出られない代わりに、人を寄越せと言ったのはお前だ。千年も続けさせておいて、今さらなことを」
史也は苦々しく言った。
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