1人が本棚に入れています
本棚に追加
向こう側に現れたオニはどこにでもいそうな青年だった。長い黒髪に白と赤の着流しを着ており、体つきも特別に筋肉が盛り上がっているというわけでもない。とてもオニには見えず、そのあたりを歩いていても誰もオニとは気づかないほど、ただの人間に見える。唯一違うというところを上げるとするなら、瞳の色が金色だというところだけだ。
「童ではないのか。なら、喰えないな」
オニは隼瀬を見ながら残念そうにつぶやいた。
「あ、あんたが封じられたオニか?」
隼瀬はようやく声を絞り出した。
「何だ、まさかと思うが、お前のような臆病者が谷塚の当主候補だとでもいうのか」
オニは震えている隼瀬を見て、あきれたように言った。
「史也はおらんのか。久方ぶりに酒でも恵んでくれるのかと思うたのに」
「ち、父上を知っているのか」
「父上・・・お前は史也の倅か。ふん、お前のような奴が谷塚家の当主候補になるとは、世の中もずいぶん平和になったものだ」
「何を――」
「人の姿に化けた己を見てこの様では、当主の器が知れたことよ。いっそ今すぐにでもこの封印を破って喰らうてやろうか」
オニの鋭い眼光が隼瀬に突き刺さる。重い威圧感に押しつぶされそうになるが、隼瀬は拳を握りしめてオニを睨み返した。
最初のコメントを投稿しよう!