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 プレミアムフライデーは飲み会への呪縛である。少なくとも今市大次郎はそう決めつけている。  仕事が早く終わる=帰宅、というわけにはいかないのが、会社という枠組みで働くサラリーマンの性だ。 「今夜は飲もう」  上司の鶴の一声が、今市の耳に入った瞬間、彼は残業が確定したとき以上に気分が滅入る。まだ残業ならば、残業代が出る希望が残されているが、飲み会にはその希望すらないのだ。  おまけに、若い女子社員たちが蜘蛛の子を散らすように帰宅してしまった今日などは、まさに地獄であった。  上司の愚痴リサイタルが延々と披露されるのだから、聞かされるほうはたまったものではない。  最後までつきあわされた今市がようやく解放されたのは、午後十時をまわったころだった。  飲み屋をはしごし、気づけば、けっこうな額がサイフから姿を消していた。さらに六時間以上も束縛されていたわけだから、これではプレミアムどころかロスである。  居酒屋やバーが並ぶ地下街を千鳥足で歩きながら、今市はふと違和感に気づいた。何度目かの感覚。が、そう何度も味わいたくないものだ。
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