そうして彼女は出会った

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「こんにちは」 「こ、こんにちは」  金を煮溶かして絹を染め上げたような美しい髪を持つゴシックロリータに身を包んだ少女は入口から出ると男の子に声を掛けた。  人形を見つめることに夢中だった赤毛の男の子は驚いたように身体を震わせると、恥ずかしそうに消え入るような返事を返した。 「私の名前はメユ。この人形専門店、ピノッキオドリームの看板娘よ」 「僕は、ニト」  メユは少し緊張をほぐしてあげようと自己紹介をしてみたものの、ニトと名乗った少年の反応はあまり芳しいものではなかった。  それもそのはずで、彼の見ていた人形は職人が丹精込めて手作りした高級な人形で、とても子供のお小遣いで買えるような代物ではなかった。そうでなくても、人形を見ていたところを見られたというのは、年頃の男の子にしては気恥ずかしいものだ。 「ねぇ、そんなに気になるなら中に入って近くで見てみたら?」  入ったから買えなどという狭量なことをいうつもりはなかったし、別に入って眺める分には構わない。行儀よく見てくれるのであれば誰であろうと大歓迎だったし、むしろ、作った人間も作られた人形も喜ぶに違いない。  店には椅子くらいあるし、なんなら紅茶とちょっとしたお菓子くらいなら出してあげよう。  メユとしては親切心でそう勧めたつもりだったが、かえって逆効果だったらしい。  ただでさえ、女の子と話している姿を誰かに見られたりしないか落ち着かない様子で周囲を見回していた男の子は、彼女に勧められると完全に気を動転させてしまったらしい。 「あの、えっと…… だ、大丈夫です!」 「あ、ちょっと……」  彼は絞り出すような声でそう告げると、踵を返して止める間もなく走り去ってしまった。  メユはポツンと一人店先に残される。 あとは他に残っているのはガラスに付いた額と手の平の跡だけだ。ショーウインドウに指紋を付けっぱなしにしておくわけにもいかないし、あとで拭きとっておかねばならないだろう。小さくため息をついて帰ることにする。  チリンっというドアベルの音に迎えられて店の中に戻ると、アンティーク調に揃えられた店の中は相変わらず閑散としていた。店の奥の工房で黙々と作業をしているどこか優しそうで線の細い黒髪の青年が一人居るだけだった。  メユは店内に居る唯一の人間に無言で歩み寄ると、そのまま彼の向う脛を固い靴の爪先で思い切り蹴飛ばした。
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