初恋

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「今日は特別な日だね」彼女に向かって僕は呟いた。 彼女から返事が来ることはなかったが僕はそれでも幸せだった。 これからも一緒にいられるから、『片思い』が『両想い』になったから。 僕は数年前から一人の女性に好意を抱いていた、いや一人の少女、と言った方がいいか。 初めて彼女に会ったのは中学の時だった。 クラスが違うから会う事も、話す機会もなかったが廊下でよくすれ違っていた。 偶然にも同じ高校に通う事になった。だが、またも違うクラスになった。 僕は彼女に片思いをしたまま高校の卒業式を迎えた。 彼女はやりたいことがあるらしく、専門学校に進学することになった。 僕はというと、特にやりたいことも得意なこともない。 まだ働くつもりはなかったし、頭は悪い方ではないから普通の大学に進学する。 僕の初恋は…、片思いは、このまま学生時代の思い出の一つとして終わるんだろうなぁなんて、ぼーっと考えていたら式が終わった。 友達と写真を撮る人達、泣きながら別れの挨拶をする人たち、この後の予定を決める人たち。 学校での“友達”なんて、ただ学校という社会で生きて行くための一つの組織みたいなもんで、どうせ学校を卒業したら関わりなんてなくなる訳で、連絡も会う事もなくなる。 「ずっと友達だよ」なんて言い合ってる女子を横目に、一人校門に向かう。 彼女とは帰り道が同じだから、もしかしたらいるかもなんて淡い期待を抱きながらも、彼女も友達と一緒だったら…そもそも一人だったところで何が出来る、と俯いていた顔を上げると前を歩いている彼女を見つけた。 「あ…、いた」 ぽつりと口から出た言葉にはっとしたが、どうやら聞こえていなかったようで安心した。 ふと、当たって砕けろという言葉を思い出し思いを伝えることにした。 「あの」 自分が呼ばれたと思っていないのか、彼女は振り向きもせずに歩き続けた。 「あの、すみません」 さっきより少し大きな声で言うと、ようやく気付いて振り向いてくれた。 「はい?何ですか?」 彼女と向かい合っただけなのに心臓が煩い。 バクバクと鳴り止まない鼓動を落ち着けるように、一つ深呼吸をして彼女に言った――。
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