1.午前0時42分16秒

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 俺は地元の大学を卒業後、特に何というポジションを与えられることもなく、普通の社会人として普通の生活を送っていた。入った会社は誰でも名を聞いたことのある大企業だが、俺の仕事はと言えば支店の営業マンなんていうありきたりのものだ。  スマホの着信履歴には実家の両親と地元の友人、あとはどこか地方のクリーニング店のものが残ってある。最後のものについては間違い電話だ。それも既に三ヶ月以上も前のものである。つまり俺には気軽に話せる友人、または彼女なんてものはいない現代社会を代表するような男だ。それでも地元に帰ればキツネ顔の同級生や狸腹の先輩がいる。しかし、女豹のような可愛いくもスリルのある彼女などどこを捜しても見つからない。今まではどうだったかと言うと……大学の頃に交際していた彼女がいたが、実際には手を握る事もなく別れを切り出されたのだ。 『古川(ふるかわ)くん、ごめん。やっぱり私たち合わないんだよ。価値観とか色々』  そんな言葉で別れを切り出されたのだが、その一週間後に大学構内で知らない男とキスをしている彼女を目撃してしまった。まるで女性のようにに華奢で汗臭さとは無縁の男。分かってはいたが、やはりショックではあった。価値観と言うものの中にまさか『ルックス』というものが含まれているとは思いもしなかったからだ。何故なら彼女は常日頃言っていたのだ。男は見た目じゃなく中身だね、なんてことを。俺はその夜ウホウホとむせび泣いたとかナントカ。  結局はそうやって俺というゴリラは人間社会での生き辛さを知ると、何も望まなくなった。コンビニのレジの女性が微笑みかけてもそれは愛想笑いだと言い聞かせ、営業先の事務員の女性がバレンタインにチョコをくれても、それは接待みたいなものだと喜びすら湧かなかった。たまに付き合いで行った合コンで筋肉を褒められるが、その最初の一言会話を交わしただけで、後はノリの良い友人が全てを掻っ攫って行く。それでいいのだと俺も思う。特に何も望まないと悔しさも生まれなくなる。そして、益々無口に磨きがかかり、遂にはそれが営業という仕事にも支障をきたした。入社以来、俺は初めて本社からの呼び出しを受けたのだ。
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