1.午前0時42分16秒

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 9畳の洋間に2畳程のキッチンがついたどこにでもある一般的な人間が住むマンションだ。俺がゴリラに似ているとは言え、生活はごく普通のものである。天井からタイヤがロープで吊るされているわけでも、バナナが冷蔵庫を埋め尽くしているわけでもない。寧ろバナナは嫌いなのだ。と一つ忘れていたが、この部屋には名前ばかりのウォークインクローゼットがついている。俺が歩くには無理があるが、1.8メートル×1.35メートルはある。物をしまうには充分だ。だが、こんな我が家に戻ったところで何の仕事があるというのか。冷静になればやはりこれはおかしい事だと気が付いた。 「やってられないな」  玄関を開け、部屋に入った俺は思わず独り言を呟き、冷蔵庫に冷やしてある缶ビールに口を付けた。スーツのまま、それも昼間から飲むビールがこんなに美味いとは想像もしていなかった。思わず「くぅ!」っと声が漏れ、惚けた顔になる。このまま何もせずに会社から給料がもらえるならどんなに良いだろう。そんな事を呑気に考えていると来訪を知らせるインターホンのチャイムが鳴った。俺は来客を確認しようとトイレ横の壁にあるモニターを覗いたが………………誰も映っていなかった。何となく冬でもないが寒気がした。ましてや昼間だ。アチラの世界の住人が来るとしても、まさか昼間からビールを飲むゴリラの元にはそう来ないだろう。ここは無視をすることにした。 「そうだ、風呂でも沸かすか」  まだ半分ビールの入った缶をキッチンに置いて玄関脇の浴室へ向かおうとして――――――外の騒がしさに気が付いた。 「やめてぇええ! 誰か助けて!」  玄関のドアの向こうから女性の叫び声が聞こえて来る。上機嫌だった俺の気分はどこかへ消え去り、代わりに先ほどのチャイムは誰かがSOSを発信したものだったのではないかという考えが過った。助けなければ。そんな言葉が頭に響くと俺は急いで玄関のドアを開けたのだった。
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