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「あぁ、今ならこの部屋なんてどうかな? 敷金、礼金込みで15万円で」
「じゅっ、15万円っすか!?」
俺は思わず強面そうな不動産店主に詰め寄ってしまった。
だって、ありえない。都心部で、ショッピングモールとかジム施設が次々と建っていて、近々開かれる大きな祭典に向けて人気急上昇、価格も絶賛高騰中なはずのこの地域で、15万円!? しかも駅から徒歩3分でキッチンも風呂も、家具だって備え付けてあるし新築だ。
そんな部屋が、初回15万円!?
敷金、礼金込みで。
おかしい、何か裏がある。
じゃなきゃありえないし。
実見でも文句なしの、むしろこっちが罪悪感を覚えてしまうほどの物件だったし。だから、俺は訊かずにはいられなかった。
「あの、すっげー訊きにくいんですけど、もしかしてこの部屋訳アリですか?」
すると、店主はにこやかに頭を掻きながら「まぁ、バレるよね~」と苦笑いして、「実はここはね、ハーフ料金部屋なんだよ」と付け加えた。
「へ?」
ハーフ料金部屋?
一瞬意味が分からなくて訊き返す。
「ほら、君部屋に帰ってくるの夜くらいって言ってたじゃない? そういう人けっこういるんだよね~、半分しか過ごさないのに、1日分所有してるっていうの? だったら半分で生活してもらおうかな、って思ってね。そういう制度を作りました!」
や、やべぇ、訳わかんねぇ……。
得意げにピースなんてしてきたけど、このおっさんだいぶ頭沸いてるんじゃないか……? まぁ、その分で安くなってる部屋なんだっていうのは十分伝わってきたが。
「君の生活パターンだと、たぶん17時から翌日の5時までの方がいいかな~、そうすればこの部屋に通せるんだけど」
「えっと、他の部屋は、」
「他は月々の家賃だけで15万は軽く飛ぶよ」
「マジすか」
「マジっす」
そんな軽いやり取り。かといって、もう散々物件探しをしていた俺は疲れ切っていたし、この部屋以上の物件なんて見つけられる自信がない。
こうして、俺は見るからに――聞くからに?――怪しげな部屋で契約することになったのである……。
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