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俺とシェア相手とのやり取りは、そこそこ長い間続いた。顔もわからない間柄ということもあって、あれこれ遠慮なく話もできたし、ほとんど情報がない相手のことを、より知りたくなっていった。
名前は金澤 光莉。夜の間は外で働きに出ているらしい。年齢は俺より2つ下だから、まだ酒も飲めない歳だ。
そんな娘が苦労してんだな……とか思うと、こうして安穏と彼女からの返事ににやついている自分が申し訳なくなったり、情けなくなったりもしたが、現状俺にしてやれることなんてあるわけもなくて。
だから、引っ込んでいるつもりだったんだ。
家財道具一式を持って、少し早めに来てしまった部屋の前の廊下。
同じような量と思しき荷物を持った女の子とすれ違うまでは。
その娘の目元に涙の跡を見るまでは。
あの娘が、まさか……!?
泣いていたらしいその背中を素通りすることなんて、俺にはできなかった。だって、顔は合わせたことなくたって、俺たちは同じ部屋で暮らした者同士なんだから……!
「光莉ちゃん……?」
そうかけた声に彼女はビクッと一瞬だけ肩を震わせた後、何も言わずにその場を足早に立ち去った。
あぁ、何かが終わったんだ。
そんな冷たくて痛い、鋭い確信と共に部屋のドアを開けて、いつも通り本棚の裏を見る。
そこには、たった一文。
『ごめんなさい さよなら』
それが、俺が彼女から受け取った最後の伝言だった。
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