僕はあと1年で死ぬらしい

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 今日は特別な日だ。  僕の39歳の誕生日。これは僕にとって何より大切で、39年前の僕が誕生した日と同じくらいに特別な日だ。とりあえず、現在一人暮らしで祝ってくれる肉親や友人も一緒にいるわけではないので、自分で自分に言っておこう。 「誕生日おめでどう、僕」  少し噛んだが、まあそこは気にしない。ポジティブなのが僕の取り柄なのだと色んな人が褒めてくれるし、実際それ以外に取り柄が無いのが僕だ。  会社で働いてはいるが成績では下の上、運動は走る事が平均程度で球技はからきし、今までモテた事なんて無くて、合コンに誘われるのは引き立て役にするため。布川通夫(ふかわ みちお)という名前から、ついたあだ名は『フツー』。  自分よりうんと不幸な人間がいる事もわかっているから、別に僕だけが悲惨なんだと思った事は無い。普通過ぎていじめられた事も無いのが僕だからだ。  覚えている限り、小学生の頃から今まで、取り柄は無いけどそれなりに楽しく暮らしてきた。なんの悩みも無くただ阿呆のような事をして過ごした小学生時代と、部活で毎日絵を描いていた中学生時代と、絵を描くことよりゲームを優先した高校生時代と、講義は睡眠導入剤だった大学生時代。昆虫採集だの絵だのゲームだのにハマりながら、毎日楽しくは暮らしていたんだ。  その中で恋愛の相談している間に相談相手がいつの間にか好きな子と付き合い出していた青春時代は、流石にやりきれないものもあったけど、別に相手は一人じゃないし、そんな軽薄な奴と縁が切れたのはむしろ良い事だと今なら思える。その時は打ちのめされてたけど、今なら。  だけどいまだに僕のモテ期とやらは来なくて、誰かとお付き合いした事なんてただの一度も無い。寂しくないと言えば嘘になるが、先にも言った通り、なんの才能も無くて平凡で前向きな事だけが取り柄の僕に、異性が、いや同性だって惹かれたりはしない。自分が逆の立場だったら、僕よりいい人なんてたくさんいる。  そしてそのままで迎えてしまった今朝、どうやら僕の貞操は守り切られたままで終わってしまいそうだ、と目が醒めた時にふと思ってしまった。根拠や証拠は無いけど、家系としての実績はある。
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