僕はあと1年で死ぬらしい

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 僕の家は父も祖父も、聞くところによれば曾祖父も、その前からずっと、男はみんな40歳になれずに死んでいるのだそうだ。  父は僕が19歳の時に死んだ。父はその時39歳、癌だった。その弟も、38歳の時に急性肺炎で死んでいる。祖父はあと二日で40歳というところで、心臓発作を引き起こして死んだらしい。 「呪いなんだ」  と生前父が苦笑いしながら言っていた事を、否が応でも思い出させられる。いったい何の、と尋ねてみても、父は困ったように笑うだけで詳しい事はわからなかった。きっと父もわからなかったのだと思う。  それは馬鹿げている事にしか思えなかった。実際に父が死んだ時も、偶然だと思い込もうとした。母がひどく悲しげに僕を見つめる事に耐えられなくて、葬式が終わってからはしばらく話もしなかった。そうしたら、父の言っていた呪いがやってきそうな気がしたから。  けれどそんな事には関係無く、向こうからそれはやってきた。僕が避けようとしても、きっと追い掛けられて追い付かれる。それが運命というやつなのだろう。  こんな事なら母ともっと話しておけばよかった。僕は今更後悔していた。 「呪いなんだ」  父の言葉が頭の中で響く。その続きを、確か何か言っていた気がする。  母も隣で聞いていたように思って、僕は久々に電話を取った。  誕生日に母親に連絡する事が、悪い事も無いだろう。  そう軽い気持ちで電話をした僕は母から話を聞いて、そういえばそうだった、と今更ながらに思い出していた。父はできるだけ早く嫁を取り、十分な資金を残して子供を世話しろと、言っていたのだった。 「それにしても、あんたも39歳か…どうなるかわからないけど、家に戻ってきたらどう?」  母は電話口でそんな事を言った。どうなるかわからないけど、という声は少し上擦っていて、もう僕が死ぬ事を確信しているようだった。情けないが、起きた瞬間に僕も同じことを思ったので非難はできない。 「また今度、考えてから電話しゅりゅ……電話するよ」  動揺して少し噛んだが、母は何も言わずに溜息だけ残した。向こう側では呆れ顔を浮かべているかもしれないと思いながら僕は通話を切り、壁にもたれて天井を見上げた。ここ5年程過ごしてきた部屋の天井は、いつでも変わらずそこにある。それは当たり前の事なのだが、今日からいつこの天井が見上げられなくなるかもわからず、僕はただぼんやりと眺めたくなったのだった。
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