僕はあと1年で死ぬらしい

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「死にたくない、のかなぁ…」  僕は僕の気持ちがよくわからない。別段、すごく貧乏で生きるのが辛いとも思っていないが、死にたくないともあまり思っていない。浮いた話が一つも無い事を少し虚しいとは感じるけれど、だからといって絶望するわけでもない。  普通過ぎて、平平凡凡が服を着ていて、中途半端に宙ぶらりんなのが僕なのかも、となんとなく思う。  理由はわからないが呪われているとして、その血が絶えるのだって悪い事ではないのかもしれないし。そんな事を本気で考えそうになる僕だからこそ、浮いた話も無いのだろうけど。 「いやいや、それじゃ困るんだってぇ」  一人で納得し、大の字に寝転ぼうとしたら、声がした。なんだか気の抜けた声で、こちらまで力が抜けそうだ。元々、そう力んでもいないけれど。  声がしたのは玄関の方で、僕は体を起こしてそちらを見遣った。 「やっほー、君の家の死神だよー」  いぇい、となんだか怠そうにピースするような知り合いは、僕にはいない。そもそも扉には鍵を掛けてあった筈だ。 「……えーっと、誰ですか?」  訝しんでいる事を隠しもせず、僕は死神を名乗るその人を見た。僕は一人っ子で、姉や妹はいない。合鍵を母親に渡していたりもしないし、大家はこんなに可愛らしくはなかった、というか会ったことがあるが男だ。 「んん~、その視線、いいねぇ。君をこれから一年以内に呪わないといけないんだけど、子供もいないし勿体ないねぇ」  死神は、本当に肩を竦ませながらじわじわと近づいてきた。自己申告によればどうやらうちの家系の呪いの根源らしい。とてもそうは見えないのだが。  長い白髪は透き通るようで、真っ赤なリボンで緩く一つに束ねられている。パーツそれぞれが整っているけれど、もとよりそれが正しい形であるようにバランスの取れた顔をしており、線が細くて白い腕や足は黒いゴシック調のワンピースから覗いている。死神と言われて想像するような鎌は持っていない。むしろ黒い服を手違いで纏っている天使のようだった。 「はは、私が天使か。現代人の感覚はわからんねぇ…」  怠そうな視線が、一瞬で鋭いものに変わる。もしかしたら、もう僕の命は瞬きする程も残されていないのかもしれない、そう思った僕は、気付いたら動き出していた。
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