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ひとまず生き延びた報告に、誕生日だからと母親に電話したら、まだ生きていた事にびっくりされた。もう完全に死んだものと思われていたらしい。ひどい母だ。けれどもう何代も女子に恵まれず、男子は40歳まで生きられなかった家系を思えば、仕方ないのかもしれない。
「とりあえず、あんたが元気ならそれでいいけどね…。もう母さんも長くなさそうだから、孫の顔でも拝みたかったわ」
弱気にそんな事を口にした母に、僕はついうっかりと言っていた。
「あのさ、母さんに合わせたい人がいりゅ…いるんだ」
相変わらず言葉がうまく発せられなかったが、母は何も言わず、溜息も吐かずにしばらく黙った。代わりに電話の向こうで息を飲んだ事を感じる。
「か、母さん…?」
あまりにも黙っている時間が長く、いつもの憎まれ口も聞かれないまま時が流れていく。心配になって声を掛けた僕に、彼女は気にしないようにと読んでいた本から視線を外し、こちらに向けた。僕もどうしていいかわからず思わずそちらを見る。
しかし、次の言葉を投げ掛ける前に、電話の向こうから音がした。どうやら嗚咽のようだ。
「お赤飯炊くから、帰ってくる時には連絡するんだよ」
少し落ち着いたところで、母はそう言った。心底嬉しそうな声だった。
「あぁ、仕事の都合もあるから、決まったら連絡する」
僕はそう返して、それじゃあ、と電話を切る。心配になったのか僕の隣にやってきていた彼女も、胸を撫で下ろした。
そして二人で微笑み合う。幸せな時間だ。
ずっと続けばいいと思うが、大丈夫なのだろうかと疑問も湧く。僕は彼女に確かめたくなった。
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