僕はあと1年で死ぬらしい

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 ひとまず生き延びた報告に、誕生日だからと母親に電話したら、まだ生きていた事にびっくりされた。もう完全に死んだものと思われていたらしい。ひどい母だ。けれどもう何代も女子に恵まれず、男子は40歳まで生きられなかった家系を思えば、仕方ないのかもしれない。 「とりあえず、あんたが元気ならそれでいいけどね…。もう母さんも長くなさそうだから、孫の顔でも拝みたかったわ」  弱気にそんな事を口にした母に、僕はついうっかりと言っていた。 「あのさ、母さんに合わせたい人がいりゅ…いるんだ」  相変わらず言葉がうまく発せられなかったが、母は何も言わず、溜息も吐かずにしばらく黙った。代わりに電話の向こうで息を飲んだ事を感じる。 「か、母さん…?」  あまりにも黙っている時間が長く、いつもの憎まれ口も聞かれないまま時が流れていく。心配になって声を掛けた僕に、彼女は気にしないようにと読んでいた本から視線を外し、こちらに向けた。僕もどうしていいかわからず思わずそちらを見る。  しかし、次の言葉を投げ掛ける前に、電話の向こうから音がした。どうやら嗚咽のようだ。 「お赤飯炊くから、帰ってくる時には連絡するんだよ」  少し落ち着いたところで、母はそう言った。心底嬉しそうな声だった。 「あぁ、仕事の都合もあるから、決まったら連絡する」  僕はそう返して、それじゃあ、と電話を切る。心配になったのか僕の隣にやってきていた彼女も、胸を撫で下ろした。  そして二人で微笑み合う。幸せな時間だ。  ずっと続けばいいと思うが、大丈夫なのだろうかと疑問も湧く。僕は彼女に確かめたくなった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加