春のように溶ける君へ

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「はじめにお話しておきますが、私はインナーセルフヘルパー(ISH)ではなく、統括人格です」 私が口をひらくと、男……坂本医師は問い返してきた。 「ISHと統括人格は違うのですか?」 疑問に思ったことを率直に訊く主治医の姿勢が、私は好きだった。 「ISHはいわば救済者、良心のかたまりです。私は人格の統率者であり保護者です。内側の秩序を乱すものは容赦なく消していきます」 「…………。きみは本当に」 「はい?」 「いや、美緒さんが、御影くんは猫だと言っていました。あなたたちを疑うわけではありませんが……、あなたに会うたびに私は驚かされるのです」 素直な医師の感想に、思わず笑みがもれた。 「先生はドリトル現象をご存知でしょう? 動物が語りかけてくる幻声体験です。美緒は……いえ、深波は一時期、それに悩まされていたことがありました。その幻声から遁走するためにつくられたのが私です」 「…………。統括人格と言いましたね。では御影くんは、私に未咲さんを会わせてくれますか?」 私は逡巡する。 「未咲に会うことは、おすすめできません」 「なぜです?」 「未咲が魅力的な女性だからです。そして、先生は男性です。だから……」 「御影くん」 静かな、けれど断固とした声だった。 「私は医者です」 それ以上反論することはできなかった。
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