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手芸用の綿を丸くちぎって並べたような鯖雲は、秋の訪れを感じさせる。
ついこの間までジリジリと蝉が鳴き、暑い日々だったのが嘘のように、心地よい涼しい風がそっと肌を撫でていく。
「そりゃあこんな気持ちよかったら、にゃんたもお外に行きたくなるわよねぇ」
家を出て暫く並木道を歩くも、出会う人の年齢層が高い。
すれ違うのはバギーを押したお婆さんだったり、仲睦まじく手を繋いで歩く老夫婦だ。
駅前に行けばファミレスが一件、あとは商店街にこれまたレトロな喫茶店があるが、若い人が好むような娯楽施設も無いこの小さな町は、入ってくる人より引っ越してしまう人の方が多くなってしまっていた。
さち子にとっては、海があるってだけでも十分なのだが。
「静かな町だわ。にゃんたー」
時々立ち止まり、草むらに呼び掛けてみるも、虫が草を揺らすだけでにゃんたの姿は無い。
商店街の美味しい匂いに釣られてるのではないだろうか。
・・・滝じぃにご飯でも貰ってるのかしら?
ふとそんな事が頭をよぎったさち子は、坂の向こうにある滝じぃのお店を目指して歩いた。
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