夕凪町の古民家

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8月の暑い陽射しが、背中にビシビシと照り付ける午後2時。 駅から15分、ひたすら坂道を歩いた。 花村さち子は、汗だくになった額を拭って、シャツの丸襟をパタパタとして空気を肌へ送る。 「ここが、これからの私の城・・・」 夕凪町という小さな田舎町。 いつか田舎で独り暮らしをしようと、数年前に買った2階建ての古民家の庭先に、さち子は立っている。 玄関の立て付けの悪い引き戸を、ガタガタと開けた。 「城って言うには・・・埃だらけね」 玄関から見えるだけでも、板間にはうっすらどころか、ハッキリとした白い埃がかぶっている。 「シンデレラだって、灰かぶりよ。最初は埃にまみれて掃除ばっかしてたはず。まずは埃かぶり姫ってのも悪くないわよね」 殆ど家具も無く、がらんとした家に、馬鹿な独り言が寂しく響く。 よしっと気合いを入れて、持ってきた使い捨てスリッパに履き替えて、中へと入った。
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