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波から視線を逸らす彼に彼女は益々怪しむ。
「それに、広瀬君いつも車で出勤しているのに、なんで今日に限って電車出勤なんですか?」
波の質問に、蓮は一瞬口ごもるも彼女に視線を戻した。
「答えるから引くなよ」
波は瞬きをした後に頷く。
「わかりました」
「お前の事つけてた。家からずっと」
「はァ!?」
「だから引くなつってんだろ!!」
怒鳴りつける彼に、波は抗議の声を上げる。
「そんなストーカーまがいの事されてちゃ誰だって驚きますよ!!」
「俺ァストーカーなんかじゃねェ!!ヤツ等と違って正当な理由あんだよ!!」
「どんな理由ですか!?」
蓮はもう一度波から視線を外した。
「お前最近色気づいて来たろ」
「はい!?」
訳の分からない事を云う蓮に波は眉間に皺を寄せる。
「俺がお前に手ェ出す様になってから、やけに色気が出て来たんだよ。…お前は無自覚だろうけど。仕事中に憂鬱そうに溜息吐いてみたり顔赤らめてみたり…社内でもお前の態度が急変したってやたら男共に人気が出て来たんだよ」
「だ、誰の所為で私が悩んでると思うんですか!?」
「俺の所為だろ?」
彼の即答に波は驚いて口を噤む。
蓮は疲れた様に溜息を吐いた。
「俺がお前落とそうとして手ェ出しててもお前、一向に俺と付き合うって云って来ねーし、反対に他の男共の視線集めっし。だから俺が責任持って古村さんに悪い虫が付かねー様に後をつけてたってワケ。―――おわかり?だから俺はストーカーじゃなくってボディガードね」
「ね?」と云う様な視線を向けられた波は蓮から目を逸らす。
「世間一般的では貴方の行動は単なるストーカーと云うんです」
波の頬は赤い。
二年間好きだった相手に身を案じて貰っていたのだ。嬉しくない筈が無い。
けれども、感情を表現する事が苦手な波は蓮にどう伝えればいいか解らなかった。
「―――でも」
波は言葉を続ける。
「痴漢を撃退して貰った事は感謝してます。―――良かったら、今日のお昼一緒にどうですか?お礼にご飯、奢りますから」
波は真っ赤な顔で困った様に瞳を揺らす。
そんな波の頭を蓮がクシャリと撫でつけた。
「だからんな顔外ですんな。俺が一人で居る時にだけしろ」
珍しく照れてる彼を彼女が見上げる。
見慣れない蓮の態度がおかしくて波はお日様みたいに笑った。
第三章おわり。
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