きっかけ

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* 夜の社内。 「また残業?精が出ますね」 「広瀬さん…」 コピーをとっていた波が顔を上げると、ネクタイを緩めながら蓮が近付いて来た。 「…広瀬さんが私に話しかけるなんて珍しいですね。どうしたんですか?今日は皆さんで飲み会に行く予定じゃないんですか?」 「これから行きますよ。けどその前に此処に寄ったの」 今の室内には蓮と波のふたりだけだ。 蓮は肩をすくめて続けた。 「しっかし、良くそんな情報知ってましたね」 波は頷く。 「ええ、私も一応誘われましたから。でも私の仕事が終わった頃には既に解散してるでしょうね」 「二次会に誘わると思わないんですか?」 「私が呼ばれると思いますか?」 「…思わねェ」 考えを巡らせた後、蓮は急に口調を崩した。 「で、此処に立ち寄った理由はなんですか?」 仕事の妨げになると思ったのか、波はムッとした表情をしている。 「アンタに一言云う為」 近くの壁に蓮は背を凭れかけ、波に視線を向ける。 「俺、アンタ嫌い」 「…既に知ってます」 波はいつもの無表情をコピー機へと戻す。 「そんな解りきった事を云う為に態々此処まで戻って来たんですか」 「うん」 波は蓮を一瞥した。 「何故ですか」 蓮は肩をすくめる。 「俺って蔭でコソコソ人の悪口云うのとかってキライなの。どうせなら本人の前で宣言したいじゃない」 「どんな理窟ですか。非常識ですよ」 非難の瞳を向ける波に蓮はいつもと変わらない表情をしていた。 「アンタには非常識でも俺にとっては常識なの」 蓮は波を嫌いな理由を続ける。 「アンタ人に無理押し付けられても反論しねェし、いつも無表情で暗いし、年下のヤツにも敬語つかうし、地味だし、眼鏡だし。なんつーか、見てるとイライラすんだよね」 「イライラは溜めとくと身体に悪いっしょ」と蓮は失礼な発言を平然とかます。
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