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夜の社内。
「また残業?精が出ますね」
「広瀬さん…」
コピーをとっていた波が顔を上げると、ネクタイを緩めながら蓮が近付いて来た。
「…広瀬さんが私に話しかけるなんて珍しいですね。どうしたんですか?今日は皆さんで飲み会に行く予定じゃないんですか?」
「これから行きますよ。けどその前に此処に寄ったの」
今の室内には蓮と波のふたりだけだ。
蓮は肩をすくめて続けた。
「しっかし、良くそんな情報知ってましたね」
波は頷く。
「ええ、私も一応誘われましたから。でも私の仕事が終わった頃には既に解散してるでしょうね」
「二次会に誘わると思わないんですか?」
「私が呼ばれると思いますか?」
「…思わねェ」
考えを巡らせた後、蓮は急に口調を崩した。
「で、此処に立ち寄った理由はなんですか?」
仕事の妨げになると思ったのか、波はムッとした表情をしている。
「アンタに一言云う為」
近くの壁に蓮は背を凭れかけ、波に視線を向ける。
「俺、アンタ嫌い」
「…既に知ってます」
波はいつもの無表情をコピー機へと戻す。
「そんな解りきった事を云う為に態々此処まで戻って来たんですか」
「うん」
波は蓮を一瞥した。
「何故ですか」
蓮は肩をすくめる。
「俺って蔭でコソコソ人の悪口云うのとかってキライなの。どうせなら本人の前で宣言したいじゃない」
「どんな理窟ですか。非常識ですよ」
非難の瞳を向ける波に蓮はいつもと変わらない表情をしていた。
「アンタには非常識でも俺にとっては常識なの」
蓮は波を嫌いな理由を続ける。
「アンタ人に無理押し付けられても反論しねェし、いつも無表情で暗いし、年下のヤツにも敬語つかうし、地味だし、眼鏡だし。なんつーか、見てるとイライラすんだよね」
「イライラは溜めとくと身体に悪いっしょ」と蓮は失礼な発言を平然とかます。
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