きっかけ

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「最後のメガネは関係無いでしょう。それに、イライラするなら私なんか見なきゃいいじゃないですか」 「しょうがねェだろ。俺気に入らないタイプには目が行っちまうんだから」 「私への不満はそれで最後ですか。気が済んだら部屋から出て行ってくれませんか」 波はコピー機から取り出した書類を纏める。 「へーへー、そうしますよ」 悪口に全く反応しない彼女に蓮はつまらなそうだ。 「でもお前さんみてーな人間でも好きな奴はいんだな。ホント意外だわ」 ボソリとした蓮の発言に波はピクリと動きを止めた。 蓮は続ける。 「しかも同じ部署に」 バサリと波の手から書類がすり抜ける。 「な、なに云って…」 紙束を床へと落とした波の顔は真っ赤だ。 明らかに動揺する波の姿に物珍しさを感じた蓮は、彼女をからかう事にした。 「あるぇ?どうしたの?やっぱり図星だった?」 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべる彼に波は慌てて顔を伏せる。 そのまましゃがみ、床に広がった書類を集めにかかる。 「バカな事、云わないで下さい!!」 「隠すなって。…でもアンタの相手、モテっからな~。役職だから尚更競争率高ェし。そーなると、アンタの想い叶わないんじゃね?」 その言葉に、波は一瞬呆けた顔で蓮を見上げた。 「…相手は誰の事だと思ってるの?」 波の口調は敬語から普段の言葉使いへと変わっている。 その態度に、蓮はおや?と、眉を上げた。 「誰って、課長でしょ?」 「ちっ違う!!勘違いしないでよね!!」 全く、と怒る彼女は紙を集める行動に戻る。 その口調に嘘は感じられない。 (俺のカン、外れたか?) 昔からカンが良い蓮は首捻る。その後でハタと気がついた。 「でも、この部署に好きな奴がいる事は確かなんだよな?な、相手誰?」 再び波が固まった。 直後に立ち上がって波は抗議の声を上げる。 「あ、あなたに関係無いでしょう!?」 真っ赤に染めて憤慨する波は、仕事をこなしてる時の物静かな彼女から想像できない姿だった。
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