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いつもの様に唇に舐め付くと、波が薄く口を開いた。
そこに蓮は舌を滑り込ませる。
「ん…」
口から洩れる波の声をぼんやりと聞きながら蓮は舌を蠢かす。
「…ッ、ひ、ろ、せ、さ…」
咥内を堪能すると、波に名を呼ばれた。
いつもと全く違う甲高い声音を蓮は心地よく感じる。
いつのまにか彼は波とのキスを堪能していた。
「…ハ」
蓮はようやく波から口を離す。
気無しに彼女に顔を向けると、波は真っ赤な顔のまま涙目だ
。
髪は多少乱れ、羞恥心でいっぱいな表情で蓮を見上げていた。
書類を抱えたままの波はふるふると震えている。
(―――この子誰!?)
普段の彼女から有り得ない色気を撒き散らす波に、彼は呆然とした。
嫌いだった先輩が、蓮のタイプにストライクな女性へと変貌を遂げていたからだ。
「…お前、やっぱり誰ともキスすんな。俺以外にその顔見せんな」
蓮の口から無意識な本音が洩れる。
その言葉にいきり立ったのは波だ。
「まだ解んないんですか!?私は好きな人としかこんな恥ずかしい事しません!!」
波は蓮の手から眼鏡を取り返す。
「ちょ…」
現状を理解し切れて無い蓮は、動きも思考回路も停止している。
波は手にした書類を手早くカバンに入れ、自分のコートを手に持つ。
「お疲れさまでした」
素早く室内を駆け抜ける波の背に蓮が声をかけた。
「なァ!!お前の好きなヤツって…」
出入り口付近で波は顔を伏せたまま彼を振り返る。
「私の好きな人はニブイ後輩ですッ」
言葉を云い残した波は今度こそ室内から出て行った。
「…マジか…」
室内に取り残された蓮はポツリと呟く。
心臓がもの凄く激しく動いてるのを感じる。
まさか嫌がらせしようとした相手に惚れてしまったのは思いがけない誤算だ。
「明日…昼飯にでも誘うか…」
先ずは今日の詫びをしなければ。
女性からの告白に慣れていた蓮だったが、恋愛に対して真面目に考え込んだのは生まれて初めての事だった。
第一章おわり。
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