給湯室

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目的地には波と共に先客が居た。 自分達の上司である紅課長だ。 「いつも古村さんばかりに茶ァ淹れさせて悪ィな」 「いえ、私お茶淹れるの好きなんで」 蓮はなんとなく、会話するふたりから身を隠す。 波の表情を覗き見ると、いつもの無表情では無く柔らかく微笑んでいる。 「古村さんはなんで俺とふたりになっといつもと違うんだ?」 「いつも?」 首を捻る波に、紅は自分の顔を指差す。 「表情」 波は、ああ、と頷いた。 「みんなの前で課長と親し気にしてたら私、女子社員の皆から敵だとみなされるじゃないですか。紅課長、女子からすっごくモテるんですよ」 (親し気、ってなんだよ) 波の声にムッとした蓮だったが、上司と部下が日常会話をするのは別に不思議じゃ無い事も知っている。 彼女は入社四年目で自分より二年先輩だ。 仕事内容以外で全く会話をした事が無かった自分とは違い、紅とは気心が知れた間柄なのだろう。 「俺ァ女に色目向けられるのが苦手なんだよ。誘って来る女は好みじゃねェしな」 (イヤミな野郎め) 紅の言葉に、蓮は表情を歪める。 蓮はこの上司があまり好きでは無かった。 「古村さんには誘われてェけど」 「え?」 意味深な上司の発言に、蓮は給湯室へと乱入した。
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