給湯室

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上司は部下から手を離す。 「…彼女が嫌がる事はすんなよ」 紅は視線を波に戻して続ける。 「古村さん、気付いて無いかもしれねェが、俺ずっとアンタに惚れてた」 「はい!?」 思いがけないことの連続に、波の声は裏返っている。 紅は給湯室の入り口近くの壁に手を掛けた。 「その馬鹿に愛想が尽きたら俺んとこ来い」 言葉を残して立ち去る紅の後姿を、波はぼうっとしたまま見送る。 「紅、課長…」 惚けた表情の彼女の顔を掴み、自分へと向けたのは蓮だ。 「アンタが惚れてんのは俺だろ!?なんて顔して他の男見てんだよ」 今の波は、仕事中の無表情な彼女とは別人だ。 静かに恥じらう今の波は「守ってあげたい」と男に思わせるオーラを放っている。 蓮は続ける。 「それともアンタ、実はビッチか!?」 「ビ!?」 暴言に波は不快そうに蓮を睨み返す。 「そんな訳ないでしょう!?下半身がだらしないのは貴方の方でしょうが!!社内でも外でも合コン三昧だって有名ですよ!?」 波は目を伏せる。 「…そんな貴方に突然告白を受けても信用持てません」 蓮はため息を吐く。 「俺ァ今まで遊びの恋とかした事無かったの!!アンタのは本気!!今も壊れるんじゃね?ってぐれー心臓スゲー動いてっし。…こんな事、生まれて初めてなんだよ」 「ッ…も、もう恥ずかしい事喋んないで下さい」 再び頬を染めた波に、思わずムラっときた蓮は引き寄せた彼女の唇に自分のそれを重ねた。 仕事に戻った蓮の左頬には真っ赤な手形の痕がその日一日中残っていたという。 第二章おわり。
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