1568人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
通勤
OLの古村波は出勤に電車を利用している。
満員電車の中、吊革に捕まった状態で波は考え事をしていた。
思い返すのは昨日の出来事。
―――また彼にキスをされてしまった。
彼と云うのは、後輩で波の想い人である広瀬蓮の事だ。
蓮は自分も波に惚れてると宣言した日から、波にちょっかいを出す事が多くなった。
昨日もそうだ。他の社員の目を盗んでライトキスをしてきたのだ。
会社の仲間が蓮に視線を向けた時、素知らぬ顔でただの後輩と先輩の間柄を演じる彼に波は振り回されている。
波は車内で赤い顔を伏せた。
(なんで、広瀬君はあんな事してくるのかな…)
二年越しの恋をしていた波に、彼は彼女を嫌いだと云ってたのにその翌日、突然告白してきた。
そんな後輩に悩まさせっぱなしだ。
軽いと噂される彼のあの告白の言葉は本当だったのだろうか。
簡単に手を出されているこの現状を顧みると、単に遊ばれてるだけなんじゃないのだろうかと思ってしまう。
(―――それとも恨まれてるのかな?…もしかして、あの日の仕返しをされてるとか?)
あの日、というのは告白を受けた日の事だ。
波の返事も聞かず、早々に手を出してきた蓮にビンタをかました事を根にもたれてるのだろうか?
波の口から自然と溜息が洩れる。
ふと波の背後に男の気配がした。
満員電車なのだから、他人との距離が近いのは当たり前な事なのだけどいつもと違う気がする。
―――真後の中年男性の様子がおかしいのだ。
なんだか鼻息が異様に荒い。
不思議がる波の肩がビクリと揺れる。
理由は、お尻の辺りに何かに触られた感触があったからだ。
これは―――人の手だ。
そう思った途端波は覚った。
痴漢をされていると。
最初のコメントを投稿しよう!