最悪の事態

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「なるほどな……」 「ですよねぇ」 ーーーやった。打ち負かしてやった。阿呆らしいのよ。全く。 「気に入らない」 「はい?」 「課長に意見するのか、山田」 「意見と言うほどのものでは……」 課長は身を乗り出し、私の顔の真ん前に自分の顔を出してきた。 「随分と偉いんだな。山田」 「偉いとかではないです。それに、社内でもないですし……。ここは少し大目に見て貰ってですね。ご近所さん同士ですから、仲良く……そうだ。会社以外ではタメ語でもイイとかにしませんか?」 「山田、俺にタメ語?」 「……いえ、提案です。単なる……気にしないでください」 私をじっと見たまま動かない課長。 「それなら、山田さん。会社以外では上司と部下では無いなら、ただの……」 課長の黒目がちな瞳に私が映っている。 「ただの男と女か?」 「なんか、その言い方は……含みがある気がしますが」 課長は手を伸ばして、がっしりと私の肩を掴んだ。 「か、課長?」 「課長じゃない。上野さんだろ」 「はあ、上野さん」 「いいだろう。会社以外ではタメ語で良いことにしてやる。その代わりに……」 「代わりに?」 「お前と俺が一緒のマンションに住んでるなんて、良い笑い者だ。会社の奴にはなるべく話すなよ」 「話しませんよ」 ーーーせこい。小さい! そんなこと気にするなんて。器の小さい男すぎるっしょ!
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