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その後、課長は、お湯が沸騰して蕎麦を入れる所まで隣でじっと私を監視し続けた。
乾麺投入後にタイマーを計りだし、麺つゆの希釈の割合だの、薬味のネギを刻めだの……とにかく疲れるほどの注文の多さにうんざりしていた。
やっと、テーブルにざるそばを用意出来た頃には、すでに疲れ果てていた。
「山田、とっとと座ったらどうだ」
見ると、ちゃんと私の分までツユの用意がしてある。
「あ、いいんですか?」
「当たり前だ。お前の勘に頼って茹でた麺とパッケージ通りに茹でた今の麺がどれだけ違うか味わえ」
四人掛けのダイニングテーブル。
課長の真向かいに座ることが、正直嫌だったので斜め向かいに座った。
「いただきます」
ツルっと蕎麦をすする。
ーーーん? 美味い! なんかいつもと違う喉越しかも!
「どうだ。美味いか」
「美味しいです。高い麺ですか? それとも…わかった! 麺つゆがいいのかも。メーカーどこのですか?」
「うちのメーカーの麺つゆだ」
「あら、そうですか。へぇ」
バシン。
テーブルに箸を置く課長。
「山田、お前、真面目にやれ」
「え? 不真面目でしたか?」
「……もう、いい。さっさと食って帰れ」
「はい、そうします」
私もうんざりしたが、表情から察するに課長も相当うんざりしたようだった。
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