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いや! 俺はなにか勘違いしてるだけ。BLって、男同士の恋愛を書いた気持ち悪い小説、だろ……そんなものをこんな綺麗な人が。
何度か深呼吸し、顔をあげる。こちらを見つめる先輩は、やっぱり美人で汚れなどまるで感じさせない、が。
「せ、先輩は……その、いわゆる……ふ、腐女子なん、ですか?」
「うん、そうだよ」
あっさり肯定された瞬間、陽一は立ち上がろうとした。その肩を、ハルトが掴む。
「ま、こうなるよねー」
「っ……はなせ、変態!! 俺がBLのモデルなんて冗談じゃないっ。腐女子なんて、腐女子なんて最悪だぁぁあああっ!!!」
心の底からの絶叫。
その瞬間、紗白から表情が消える。
「ねえ、君? 人の大好きなものを、そう悪く言うもんじゃない、よ? ――ハルト」
凍えた美声が命じる。
「やれ」
「へいへいほーっと」
「な、なにをっ!」
陽一はハルトに羽交い締めにされる。しかし、体格は陽一のほうがいい。その気になればこんな細腕振り払えるし、むしろ振り払ってハルトに怪我をさせることを恐れていると、紗白が笑って近寄ってきた。
その微笑みに、陽一はひやりとする。
たとえば、蟻の巣に水を入れて踏み潰したらどうなるかなぁと笑う幼子を見るような、気分。
「さて、君はどうされたい? 二週間ここに通うと言うなら離してあげてもいいけど?」
「っ、誰がそんなこと言うか!」
「うん、いい答え。それなら、少し、酷いことをしようか? ……手っとり早いのは、やっぱりアレかな」
紗白は軽やかな足取りで隣の部屋へ行くと、赤い布切れを握りしめて戻ってくる。そして、突然、陽一に顔を近づけた。
「おとなしくしてて?」
「なに、を……」
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