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「人聞き悪いよ? それは琴羽先輩への貢ぎ物。先輩の小説って、熱いファンがいてさ。それ目当てに、この学校に入学してくる子もいる」
「冗談だろ! BL小説目当てに学校を決めるなんて……」
言いかけて、クラスの女子の様子を思い出す。
あれまさか全部、腐女子? いやいやっ、そんなことあるわけ。
ダラダラ冷や汗を流していると、それを知ってか知らずかハルトが呟く。
「作品はペンネームで発表してるから、誰が書いてるかなんて知りようがないんだけど。ときどき、どうやってか嗅ぎつけてくる強者がいるんだよなぁ」
そういうことなら、クラスの女子の大半が腐っているわけではないだろう。紗白がどうして女子に人気があるのか疑問は残るが、とりあえず、陽一は胸を撫で下ろす。
「琴羽先輩の小説はすごいよ? 読めば分かる。それ以上に、先輩の小説に取り組む熱量がすごいっ。この人は小説を書くために生まれてきたんだ、と思う。でも……いやだからかな? スランプで小説を書けなくなって、苦しそうなんだ」
「…………」
「木戸っちさぁ。昨日のことは許せないのかもしれないけどぉ、琴羽先輩にはツンケンしないでくんない?」
「それ、自分が同じことをされても、そう言えるのか?」
ハルトが自分を懐柔しようとしていることに気づき、陽一は刺々しい視線を向ける。
「スランプだか何だか知らないが、やっていいことと悪いことがある!」
それは正論のはずだが、ハルトに鼻で笑われた。
「ばーか。男ならあれくらい、泣いて飲み込め!」
「……っ」
その瞬間、この半裸の美少年がかっこよく見えた。見えてしまった。
言いようのない敗北感に黙り込んでいると、涼やかな美声が落ちる。
「ハルト? 木戸くんといちゃつくなら、私がいるときにしてほしい」
言ってることは最低だが……
どっと疲れて畳を見つめていると、紺のハイソックスに包まれた足が視界に入ってきた。
「木戸くん、よく来てくれたね。ゆっくりしていって」
ちらりと見上げると、しとやかな美貌。
正直、紗白に言いたいことは山ほどあった。それこそハルトに噛みついたように、女の先輩であろうと怒る気でいたのだが……
くそっ、言えない。ああぁぁあ、やっぱりこれは……
つんけんするなとハルトに言われたが、釘を刺されるまでもなかった。なぜなら紗白を前にすると、胸が高鳴るのだ。
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