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「先輩、録音しないなら、一枚だけ読みますっ!」
「……え、なんで? なんで、読んでくれる、の?……嬉しいけど」
紗白は戸惑ったように眉を寄せる。しかし、そのことに陽一は気づかなかった。
ただ何も見ず、字札を一枚掴む。選んでいたら心が折れると思ったからだが、取った札はある意味、神がかっていた。
『先輩って、可愛いですね。これくらいで赤くなっちゃって……襲ってもいいですか?』
「…………」
「あ、王道なの取ったね。それ、私も好きだよ?」
紗白が期待に顔を輝かせる一方、陽一は絶望に突き落とされた。
……こ、これを読めと? それも好きな先輩の前で。
無意識のうちに助けを求めて、視線が泳ぐ。目があったのは昨日の白猫だった。
いつからいたのだろう。冴え冴えとした青い目でこちらを見ていたかと思うと、ぷいっと顔を背けられる。
「木戸くん、早く聞きたい、な?」
敵は強敵だ、助けはない。
ごくりと唾を呑み込み、陽一は腐った戦地へ赴いた。
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