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正直、死ぬかと思った。
朝から昼にかけて豪雨が降りそそいだ河川は、その見た目以上に水かさが増し、少年は何度、生命の危機を感じたかわからなかった。
運が悪ければ、翌日の新聞に掲載されるような悲しいことにもなりえたと思う。
そうまでして彼が河に入ったのは、河川の岩に段ボールが引っかかっているのを目撃したから。
正確にはまだ小さな白猫が入った段ボールを、不運にも見つけてしまったから。
そして、周りには自分しかおらず、一人無謀な救出を決行したのだった。
「生きてるって、すんばらし、い……」
どろどろの制服に母の雷が落ちる未来が待ち受けようとも、助けた子猫にさっきから親の敵のように噛みつかれようとも。
彼はこのとき自分の行動に満足していた。
その一言を聞くまでは……
「君は、阿呆か?」
頭上から降ってきたのは、冷ややかなソプラノ。
「……なんだよ」
そのときの彼は疲れており、声の主を確認することはできなかった。それが、後々、致命的になることを、彼はまだ知らない。
せめてここで確認しておけば逃げることも可能だったかもしれないが…
「まったく、理解できない」
不満げな舌打ち。
『彼女』との出会いは、このようなものだった。
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