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「さっき、その女の子が言っていました。紗白先輩がスランプになるのは初めてだって。それは、本当ですか?」
「……まあ、そうだよ。今まで書けなくなったことなんて、ない」
紗白は唇を噛み、陽一を見上げる。
「二次元世界は素晴らしい。三次元よりもずっとずっとね。その素晴らしい世界を描けなくなったことなんて、今まで、一度もなかったんだよ?」
「それは、俺をモデルにしたからですか?」
紗白はうっすら微笑んだ。部屋の隅で丸くなる白猫に視線をやる。
「あの子、なんていう名前か教えたっけ?」
「いえ」
「クロちゃん。白猫なのに、どうしてそんな名前をつけたかわかるかい?」
「……話をすり替えないでください」
陽一の言葉を無視して、紗白はクロちゃんおいで、と白猫を呼ぶ。
「いい子だね。お前は賢いね。ちゃんと自分の名前がわかるのか」
「先輩!」
うるさそうに眉をひそめる紗白のそばに、陽一はどっかりと座り込む。
「紗白先輩が、文芸部に人を招くことは、今まで何度かあって紗白琴羽の召し上げと呼ばれていると聞きました」
「召し上げって大げさな」
「呼ばれた人の共通点は、みな有名人だということ」
「そうだった、かもしれないな?」
「それは俺みたいに、何日も呼び出したんですか?」
「いや? 長くても二日で終わったよ?」
「じゃあ、なぜ、俺にはこんなに時間をかけるんです?」
「……うーん、なぜだろうね」
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