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なんで、この人は俺を部活に誘う? 普通、面識もない下級生男子、誘わないよな。まさか、一目惚れされた、とか。いやいやっ! 前にどっかで会ってて、隠れた文学の才能を俺の中に見た? うーん、でも、会ってたら絶対、忘れないし。
うーん、うーん、と。
思考に捕らわれていた陽一は、紗白が立ち止まったことに気づかず、その横を通り過ぎる。
「……くん? 木戸くん!」
「あ……はいっ。な、なんですか?」
あげく、無防備にも何も考えず紗白と顔をあわせてしまった。彼にとっては、非常に不運なことに。
「うん? 部室についたよ?」
くすくすと。
後輩の様子がおかしかったのだろう。紗白は口元を押さえて、笑みを零していた。
白い指先の桜貝のような爪、微笑みを刻む唇の朱。
上品でありながらも、ほのかな色香がただよう表情だった。
……綺麗、だ。
さっきからずっと背中を見ていたこともあり、その微笑みは彼の鼓動を速くさせた。心臓を射抜かれた、気がした。
やば!……やばいやばいっ!
この感覚を、自分は知っている。あれだ、落ちたらまずい病だ。それもこんな高嶺の花に。
「木戸くん? どうしたの? おいで」
紗白は彼の動揺には気づいていない様子で手招きする。
……とりあえず、落ち着けっ!!
陽一は平静を取り戻そうと呼吸を整えながら、ゆっくり歩き出す。
特別教室とプレートが掲げられた教室のドアを、紗白が開けた。
「ようこそ、文芸部へ」
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