2人が本棚に入れています
本棚に追加
「木戸っち、勘いいなぁ。琴羽先輩、腐敗臭が漏れてますよ~ 逃げられちゃまずいんでしょ」
「……逃げる?」
猫の話をしているのだろうか?
不審げに眉を寄せる陽一の前で、紗白は唇を少し尖らせた。さて、と居住まいを正す。
「木戸くん、一つ話していなかったことがあります。君を部活に勧誘した理由なのだけど、小説のモデルをお願いしたいんです」
「……はい? モデルって」
「私が書いている小説に出てくる、イアンのモデルになってほしいんです」
「…………」
「8月に大きなイベントがあって、私は小説を書かなければならないんだけど、筆の進みが悪くて困ってます。でも、君がそばにいれば、書ける気がするんです」
抑えた口調だが、紗白は真剣な顔だった。彼女にとってよほど重要なことらしい。
しかし、陽一はほんの少しだけがっかりしてしまった。
なんだ、そんな理由なのか。まあ、惚れられたとかないよな、そりゃあ。
実際は小説のキャラと似ているとかいう、全然自分とは関係ない理由。
「……よくわからないですけど、そんなに小説のキャラと似てるんですか?」
「? そうじゃなくて。君からインスピレーションを感じるんです」
「インスピ……」
「木戸くん、二週間だけでいいから放課後ここに来てくれない、かな? お礼はもちろんするし、自由に過ごしてくれていいからっ」
切羽詰まった様子に、陽一は驚く。
「いやっ、そんなお礼なんていりません! ……モデルなんて恥ずかしいですけど、それくらい別に」
「……本当に?」
「はい、協力しますよ……あ、先輩はどんな話を書いているんですか?」
何気なく尋ねると、なぜかハルトがぷっと噴き出した。一方、紗白は瞳をきらきら輝かせる。
最初のコメントを投稿しよう!