文芸部にようこそ

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「木戸っち、勘いいなぁ。琴羽先輩、腐敗臭が漏れてますよ~ 逃げられちゃまずいんでしょ」 「……逃げる?」  猫の話をしているのだろうか?  不審げに眉を寄せる陽一の前で、紗白は唇を少し尖らせた。さて、と居住まいを正す。 「木戸くん、一つ話していなかったことがあります。君を部活に勧誘した理由なのだけど、小説のモデルをお願いしたいんです」 「……はい? モデルって」 「私が書いている小説に出てくる、イアンのモデルになってほしいんです」 「…………」 「8月に大きなイベントがあって、私は小説を書かなければならないんだけど、筆の進みが悪くて困ってます。でも、君がそばにいれば、書ける気がするんです」  抑えた口調だが、紗白は真剣な顔だった。彼女にとってよほど重要なことらしい。  しかし、陽一はほんの少しだけがっかりしてしまった。  なんだ、そんな理由なのか。まあ、惚れられたとかないよな、そりゃあ。  実際は小説のキャラと似ているとかいう、全然自分とは関係ない理由。 「……よくわからないですけど、そんなに小説のキャラと似てるんですか?」 「? そうじゃなくて。君からインスピレーションを感じるんです」 「インスピ……」 「木戸くん、二週間だけでいいから放課後ここに来てくれない、かな? お礼はもちろんするし、自由に過ごしてくれていいからっ」  切羽詰まった様子に、陽一は驚く。 「いやっ、そんなお礼なんていりません! ……モデルなんて恥ずかしいですけど、それくらい別に」 「……本当に?」 「はい、協力しますよ……あ、先輩はどんな話を書いているんですか?」  何気なく尋ねると、なぜかハルトがぷっと噴き出した。一方、紗白は瞳をきらきら輝かせる。
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