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「今回は吸血鬼ものを書いているんだっ。中世ヨーロッパを舞台にするのは初めてなのだけど……主人公は吸血鬼のエヴァ、木戸くんは流れ者の双剣使いのイアン。エヴァは吸血の欲望を抑え、隠れて人の中で生きているのだけど、あるときイアンと出会い、二人は互いに惹かれていく。けれど、イアンが留守のときにエヴァの正体が知られ、エヴァは領主に捕えられ、拷問を受ける。エヴァが吸血鬼と聞かされながらも助けに行くイアン。そして二人は……と、まあ、こんな感じかな」
紗白が語り終えると、陽一は感嘆の吐息をついた。
「すっげぇ面白そうっすね!」
「……そ、そんな大したものではないよ」
「そんなことないです! 物語が作れるってだけで、すごいです!!」
「ううん、ただ好きなだけだから」
紗白は恥ずかしそうにだが、嬉しそうに微笑んだ。その表情の美しさに、陽一は息を呑む。
「っ……いやいや、それにしても吸血鬼ものなんて書けないです。難しそうですよ~」
「いろいろ読んでるから。吸血鬼ものは、BLでは定番だしね」
「…………びーえる?」
……な、なんだ? 知ってる単語だけど、意味が出てこない。脳が拒否する。
「琴羽先輩、今回、濡れ場書くの~? 誤字脱字のチェックを手伝うのはいいんだけどさぁ。僕としては、野郎同士の絡みは楽しくないというか。主人公の吸血鬼は、銀髪紫眼の女の子ちゃんのほうが嬉しいというか?」
「銀髪紫眼でもいいけど、美青年じゃないとだめ。あ、美青年じゃなくて、美中年ならいいよ? 美老人も可」
「……うぇ。マニアック」
苦笑するハルトの横で、陽一は頭痛を耐えるように俯いた。
BL、野郎同士、濡れ場、美中年、BL、野郎同士、濡れ場、美中年……
全力で現実逃避をするが、聞こえてくる単語はひどい気がする。ガラガラと何かが音をたてて崩れていく気がした。
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