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「・・岐司さん、私の評価は著しく低いようですが私も人に親切にしたことはありますよ。それはやはり罪が打ち消してのことなんですか?」
「・・確かに貴方は大きな間違いを犯しています。しかし人間はその多寡(たか)、大きさに差はあれど皆、罪を犯します。
何一つ罪なく生涯を終える人などいません。
大事なのは己の罪を悔やみ、恥じることなのです。
心からそれを感じて他者に置き換えれば赦す心が生まれ、それが慈愛を生むのです。
貴方は罪を間違いと思っていないところがあります。まずそれが一点。
さらには親切というものは“してやった”といったものではないのです。
徳のある行動というのは打算的なものではなく、さりげなく静かで見返りを求めたりしないもの・・そうですね、いわば誰にでも平等に陽を注ぐ太陽の如きものです。
有り体(てい)に言うとその心根が貴方には足りていません。」
「・・ではそれがなぜ必要なのです?」
自分の欠点を初見で見透かされ、的確に指摘された研次の心中は穏やかではなかった。かといって悪態もつけないし毒づくことはおろかそれを考えることも許されない。それを総括して出たのはこの質問だった。
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