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建てたときには葉月しかいなかったのに、いつの間にかその下に二人も授かった。まぁそれも幸せな悲鳴ではあったのだけれど、家計簿から聞こえる悲鳴は日々を重ねるごとに断末魔に近しいものになっていく。子ども三人、出費はとどまることを知らない。万里子はパソコンの電源を落とした。
今日は日曜日だが、夫の良明は出勤である。小さな文房具会社の営業マンである良明は、地方への営業まわりを任命されて短期出張へと出向いている。何も子どもが三人もいる良明を任命しなくても……とは思うのだが、出張手当とお弁当をしばらく作らなくて良いメリットを取って笑顔で送り出したのは他でもない万里子である。良明はどちらかというと寂しそうに玄関からキャスターケースを引きずり出て行った。
そんな良明の侘しさをはらんだ背中を思い出していた万里子の背後で、ふと声がした。
「お母さん!」
「え?」
それは聞きなれた子どもたち三人の声。
振り返ってみるとそこには何とも珍妙な格好をした我が子たちがいて、万里子は目をしばたたかせた。
今はもう珍しい青いビニールゴミ袋を逆さまにし、穴三つ開けられたそこに頭と両手を通している。前は切り開かれて黒いビニールテープでふちを仕上げられていた。腰にはこれまた廃品回収で使うビニール紐でキュッと結ばれていて、つまりはまあ、手作りの法被のようなものを子どもたちは着込んでいたわけだ。頭には子ども会の祭りで使ったねじり鉢巻をくくりつけて。
「どうしたの、その格好?」
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