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そして浴槽の方といえば、ぷかぷかとなぜかミカンが浮いている。普通ミカンではなく柚子ではないだろうかとも思うが、この五月では手に入らなかったのだろう。いや、ただ単純に柑橘系なら全部同じと思ったのかもしれない。
しかしミカンはミカンでいい香りを漂わせてくれる。五つ入ったそれを弄ぶように湯船をかき回した。水温もちょうどいい、いいお湯だった。
洗面器でそこからひとすくいし、まずは足元へ。そして肩からお湯をかける。熱くも感じるそれだったが、香りのおかげかリラックスできる。
するとちょうどそこで、浴室の扉向こうから声が聞こえた。
「湯加減はいかがですかー」
末っ子颯の声だった。半透明の浴室扉の向こうで、小さな青い影がぼんやり浮かんで揺れていた。
「いい感じですよー」
万里子は颯の口調を真似て答えた。すると「失礼します」と颯が中に入ってきて「お背中流します」と言ったのだ。小学一年生がこんなセリフを言うはずはない。葉月の入れ知恵というか、こう言いなさい、という指令なのだろうと万里子は笑った。なんとも可愛い三助だ。
「ありがとう。じゃあこれでお願いできる?」
「うん!」
颯に泡立てたボディタオルを渡して、背中を洗ってもらうことにした。ゴシゴシ、と口に出しながら洗ってくれる颯だが、その力はゴシゴシというよりはコシコシといった感じである。
「もうちょっと強くお願いします」
「これくらい?」
「そうそう、気持ちいい」
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